再エネ主力時代の需給運用と計画(5-3)再エネと蓄電池のみで構成される系統における需給計算

(a)調整力に関する前提
 ここでは系統に再エネと需要と蓄電池だけがあるという状況を想定しています。このとき基本的に調整可能なのは蓄電池だけです。もちろん再エネも需要も調整可能ですが、その調整には効率を考えると一定の制限があります。ここで考える調整力は需要変動、再エネ発電量の変動(あるいは予想との差)に対して有効に動作する必要があるため、常時確保されるものであることを前提としています。
 まず再エネの調整について考えます。ここではこれまでの議論のとおり再エネとしては太陽光発電と風力発電を想定しています。いずれの電源もその源泉となる入力エネルギーは日射や風というような「自然な」エネルギーですのでこれ自体は制御を行うことができません。とくに入力を増加させることは不可能です。したがっていつでも再エネの発電出力を20%増加させる調整力を持つためには、たとえば100%の入力があるときに、そのエネルギーの一部を捨てて80%で常時発電することにより実現できます。しかしこの方法では発電中は常時このような運転をすることになり非効率です。一方、入力を減少させることは発電出力を加減することで見かけ上一部対応可能です。たとえば同じように20%の調整幅(減少)を確保するためには、定格出力の20%相当分を電力変換器で少なく発電すればよいことになります。
 簡単に言えば、再エネ電源においては下側調整力(出力を減少させる能力)は上側調整力(出力を増加させる能力)よりも効率的に確保できます。
 結局、常時上側調整力を確保することは難しく、これは需要の調整に任せ、下側調整力を常時確保するのが効率的であることがわかります。また、下側調整力の確保は、部分負荷運転(入力に対してそれよりも少ない出力で運転する)が可能ならば出力の制御を行ってもよく、できないならば多数ある発電機の一部を系統から切り離す(またはゲートブロックする)ことで実現できます。もちろん発電量はすべて給電所(あるいは制御所、以下同じ)から監視可能で、その制御信号はすべての発電機に到達し、応動する必要があります。
 一方、需要の調整は基本的に下側(出力を減少させる)調整力のみです。現在行われているような上げDR(平均的に予想される直前需要に対し、上げDRが発令されたときだけ増加させた運転を行うことにより需要増加を確保するデマンドレスポンス)は、常時確保型の調整力としては基本的に使えないので対象となりません。
 上記の考察から需要に関しては下側(需要を減少させる)調整力のみ期待し、上側(需要を増加させる)は再エネの下側(発電を減少させる)調整力に任せるのが自然です。下側調整力の確保は、基本的に配電用変電所の変圧器あるいは配電線フィーダー単位で負荷しゃ断するのが基本です。
 次に蓄電池の調整力については、これはSOCを調整することにより給電所(あるいは制御所)から上側(充電)も下側(放電)も制御します。給電所では全有効設備量(蓄電池容量、蓄電池出力)とSOCを完全に把握・制御できるものとします。
(b)調整の優先順位と制御手順
 究極の目標は需要に発電を合わせることです。しかし今考えている系統内に制約なしに調整可能なのは蓄電池だけです。供給にしても需要にしても、その調整はしゃ断という痛みを伴う制御を伴います。一方で蓄電池は充電・放電を行うことにより需要と供給(発電)の差をある程度まで埋める(以下緩和あるいはしゃ断されたものを救済するという表現を用いることがあります)ことができます。もし蓄電池の容量や出力が制限されて調整量が十分でない場合は、最終的には需要が供給を上回る場合は需要を調整(しゃ断)し、反対の場合は供給を調整(しゃ断)します。
 需要にしても供給にしても、また蓄電池にしてもそれぞれの事情があります。需要はできる限り自由に必要量を使用したく、しゃ断されるのは利用者にとって不都合です。供給側は発電量を最大にして収入を増やしたい。蓄電池は充放電による売買電収入または調整力を提供することによる収入を最大化したい。それぞれの希望をすべて叶えることは利害関係の調整が必要であり、事実上不可能であるか少なくとも困難です。
 そこでここではまずは需給調整の概要を把握することを目的として、優先順位を設備の種類単位で次のように設定します。
(ア) 需要のしゃ断を最小化する
(イ) 供給のしゃ断を最小化する
(ウ) 蓄電池は(ア)と(イ)の目的のために自由に制御できる
(エ) 蓄電池の充放電にかかるロスはゼロとする(簡単のため)
 また、これを連系された多数の系統間で調整するためには、単一系統内での調整と、連系線を用いた全系における調整の方法についても考慮する必要があります。ここでは連系線の容量は無視(無限大)かつ連系線の有効潮流ロスはゼロ(また無効潮流とそのロスは考慮しない)という条件下で次のように制御手順を設定します。
(ア) 単一系統内の調整を優先する。まず系統内の需要と供給を差引きし、大きい方は差分だけしゃ断されるため、これを系統内の蓄電池の余力により緩和する。このとき同一系統内の負荷しゃ断と再エネしゃ断は同時には起こらないものとする
(イ) 次に全系統規模で見てしゃ断された負荷としゃ断された再エネが存在する場合は両者を連系線を通じて調整する。このときまず再エネしゃ断の総量が負荷しゃ断の総量より大きい場合は負荷しゃ断の全量を救済する。このとき再エネの各系統のしゃ断量に比例した量の応援を他の系統の負荷しゃ断に対して行う。反対のときは、各系統の負荷しゃ断量の割合に比例した量の応援を他の系統の再エネしゃ断に対して行う。この操作により負荷しゃ断量と再エネしゃ断量のいずれかはゼロになる(またはまれなケースとして両方がゼロになる)
(ウ) 全系で見て残った負荷しゃ断または再エネしゃ断を、全系統の蓄電池余力で緩和する。この場合も、(イ)の場合と同様にしゃ断量と蓄電池余力の小さい方の値を大きい方の系統毎のしゃ断量または蓄電池余力の割合に応じて緩和する。
 これらの(ア)から(ウ)の調整は計算順序がこのとおり行われるだけで、この時間になる前に予想値を用いて一気に計算され、実際には計算結果が実行されます。したがって、いったん負荷しゃ断された後に蓄電池から電力が供給されて復活するというようなことは一つの時間帯内では起こりません。
なお、この計算は算術計算のみによって実現可能です。複数の時間帯にまたがって救済や調整は行わず、基本的に時間に沿って同じ方法で順次計算していきます。ただ、蓄電池余力は次の時間帯に持ち越されるので、余力分は次の時間帯の蓄電池余力となります。したがって蓄電池の容量を大きくすれば、ある時間帯に確保された蓄電池余力が後の時間帯における調整に使用され、結果として全体のしゃ断量を縮小することは可能です。
次の節では上記の計算を実際に行った結果について見ていくこととします。