再エネ主力時代の需給運用と計画(1)

1.はじめに

一言で:「供給力の充足」と「需要と供給の一致」を扱います

 そもそも電気が「安定」しているということを、具体的にイメージできる方は少ないでしょう。使用する機器の必要に応じて電池を入れるかコンセントから電源を取れば、電気機器は動作するものだからです。もしかすると直流と交流という概念もないかもしれません。深く考えなくても、あるいは難しいことは抜きにしても先のイメージに従って再エネで全電気エネルギーを、さらには電化によって全エネルギーを賄っていこうと考える人が多いのも殊更に不思議なことではないでしょう。

 ただ、注意しておかなければならないのは、このイメージによって再生可能エネルギーを単独で、あるいは主たる電源とした各種の事業が容易に実現可能であると早合点し、そこへの出資を考える人が多いことはある種の危険性を孕んでいます。電力工学やエネルギー工学の素養があれば、または少なくとも「安定」の概念が理解できれば、事業へ出資の候補となりうるかどうかは冷静な分析により判断可能でしょう。

 もっともこの「安定」という問題が難しいのは、どの期間を対象として考えるかによって課題の種類や程度が変わるということです。例えばある瞬間なのか、一日なのか、一週間なのか、一か月なのか、一年なのかによって「安定」を実現するべき方法が異なるということです。さらも問題を複雑にするのは、誰がそれらの課題の解決に責任を持つのかが必ずしも明らかではないというところです。電力を供給する事業者が多種多様になれば、それぞれが担うべき範囲や課題も多種多様になり、一事業者ですべての必要を満足できないこともあり得ます。その結果として全体の品質をコントロールする事業者の業務や各事業者が果たすべき責務や、市場経済の働きによってコントロールする電力取引市場の役割が試行錯誤的に検討され実施されていますが、未だに完全な状態であるとは言えない、あるいは改善の余地があるというのが現状です。

 (交流)電力系統の安定には「供給の充足」以外にも様々な種類があり、品質をコントロールする事業者の実務者はすべてを把握していなければならないはずですが、その他の事業者にとってはこれは実際的には非常に難しい問題であり、必ずしも各自の事業の範囲ですべてを理解できるものでもないので、ここで扱うのは誰もが比較的容易に把握可能でありかつ重要な問題である「供給力の充足」ないしは「供給と需要の一致」だけとします。実際、筆者にもすべてを知悉する経験も能力もありませんので、これしか議論のしようがないのが現実ですが、その他の「安定」においても基本的な足場となるため、頭の体操としては無意味ではないと考えます。

 以上縷々述べてきましたが、要は「供給力の充足」ないしは「供給と需要の一致」に絞って以降の議論を進めていきたいと思います。